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Chroma Luxeの「スタイル(Styles)」とは?
定期的にデジタイズしていると、地味に効いてくるのが“同じ設定の繰り返し”です。デザインを描くこと自体よりも、密度・アンダーレイ・補正値を毎回手で戻す作業が積み重なって、気づけば時間が溶けます。
Chroma Luxeのスタイル(Styles)は、その繰り返しを減らすための機能です。布地ごと/自分の作業流儀ごとに「よく使うパラメータのセット」を保存しておき、新しく作成するオブジェクトに自動適用できます。
動画では The Embroidery Nerd のJeffが、内蔵の布地テンプレートからカスタムスタイルを作る流れを実演しています。本記事では、画面上のクリック操作を「実際に縫ったときに何が起きるか(糸・生地・仕上がり)」に結びつけて、現場で再現しやすい形に落とし込みます。
なお、この機能は動画内でも明言されている通り Chroma Luxe限定で、Chroma Plus / Chroma Inspire には現時点で搭載されていません。

既定の布地スタイルを開いて編集する
Chromaの布地スタイルは、いわば「安全寄りのレシピ」です。特にタオルのような不安定・高パイル素材を想定して、アンダーレイやプル補正が“厚め”に振られていることがあります。安定した素材(例:ポロやしっかりした生地)中心の運用だと、初期設定が「重い/密すぎる」と感じやすいのはこのためです。
Step 1 — スタイルファイル(布地プリセット)を開く
- File を開く
- Special Files を選ぶ
- Open Style をクリック
すると、拡張子 .stl のスタイルファイル一覧が開きます。Jeffはベースとして Towel を選択しています。


Step 2 — スタイル内オブジェクトを「安全な作業用ファイル」にコピーする
スタイルを開くと、作業画面に複数のオブジェクトが並びます。これは刺繍するための図柄ではなく、縫い種(Run / Satin / Tatami など)ごとの設定例を保持するためのオブジェクトです。
安全ルール:工場出荷のテンプレート(元ファイル)を直接編集しない。
- Towelスタイルを開いた状態で すべてのオブジェクトを選択
- Copy(Ctrl+C)
- 新規の空ファイルに切り替え
- Paste(Ctrl+V)
これで、元テンプレートを壊さずに自分用の調整ができます。


現場のコツ: 動画内でも触れられている通り、スパンコール(Sequin)やシフリー(Schiffli)など、専用アタッチメントが前提の項目は環境によっては扱えません。不要なら削除して、スタイルをシンプルに保つと管理が楽です。
重点調整ポイント:品質を左右する3要素
ここが「画面上の設定」と「実際の縫い上がり」が直結するパートです。Jeffは主に、ラン縫いの縫い目長さ(ディテール)、アンダーレイ(土台)、プル補正(歪み対策)を調整しています。
Step 3 — ラン縫い(Run)の縫い目長さを詰める(ディテール調整)
工場出荷のラン縫いは 2.5mm〜3.0mm 付近のことが多く、速度は出ますが、曲線がカクついて見えることがあります。Jeffはここを短くしています。
- Run のオブジェクトを選択
- Stitch length を 1.5 mm に変更
- Apply をクリック

チェックポイント: 右側のプロパティ(設定)欄が 1.5 mm になっているか確認します。
実縫いの感覚: 1.5mmはかなり短めです。
- メリット: 曲線が滑らかになり、小さめ文字の見え方が整いやすい
- 注意点: 針の貫通回数が増えるため、条件次第で糸切れが増えます(針先の状態や速度の影響が出やすい)
注意: 短いラン縫いを多用する前に、針先の状態は必ず確認してください。針先に傷(バリ)があると、短い縫い目ほど糸への負担が増えやすくなります。
Step 4 — サテン(Satin)のアンダーレイとプル補正を調整する
次にJeffは Satin のオブジェクトを選び、コラムの出方を整えます。
画面で確認できる既定値(動画内の例):
- 縫い目長さ:3.5 mm
- 密度:0.40
- アンダーレイ:Zigzag
- プル補正:0.4 mm(Absolute)
Jeffの変更点:
- Contourアンダーレイを追加(Zigzagは残しつつContourを足す)
- プル補正を 0.4 mm → 0.2 mm に下げる



解説:なぜ「0.2mm」と「0.4mm」で見え方が変わるのか
プル補正は、生地が引かれて縫い幅が痩せるのを見越して、あらかじめ“太らせる”ための設定です。
- 0.4 mm(既定値): 失敗しにくい安全側。タオルなど不安定素材を想定して厚めになりやすい
- 0.2 mm(Jeffの好み): 仕上がりがシャープで、文字が「太りすぎ」に見えにくい
ただし、0.2mmは“物理側の安定”が前提です。枠内で生地が動くと、アウトラインとフィルの間に隙間が出やすくなります。
- 対策の考え方:0.2mmの見た目を狙うなら、枠張りの再現性(テンションの均一さ)を上げる必要があります。ここで検討対象になりやすいのが マグネット刺繍枠 です。ネジ締めで引っ張り合うタイプより面で保持しやすく、テンションのムラを抑えやすい、という発想になります。
Step 5 — タタミ(Tatami)にLatticeアンダーレイを追加する
Jeffは大きめの Tatami fill オブジェクトを選択し、アンダーレイを追加します。
- Underlay を有効化
- ドロップダウンから Lattice を選択

チェックポイント: Underlayがオンになり、種類が Lattice になっていること。
狙い: Latticeは格子状の下地を作るため、表糸が沈み込みやすい生地で安定に寄与します。
Step 6 — アップリケの停止(色替え)を設定する
Jeffはアップリケ用のサテン設定を確認し、以下を有効にしています。
- Applique Command:Change Colors

運用上の意味: 多針刺繍機では、色替えコードが入ることで停止・待機のタイミングを作りやすくなります。アップリケ布の配置やカット工程を挟む場合、意図した場所で止めるための考え方として有効です。
カスタムスタイルを保存し、既定(デフォルト)として適用する
調整した内容は、保存して初めて“毎回の作業短縮”になります。
Step 7 — カスタムスタイルとして保存する
- File > Special Files を開く
- Save Style を選ぶ
- 分かりやすい名前を付ける(例:EMB Nerd / Shop Standard)

チェックポイント: ファイル名に余計な拡張子表記を重ねない(拡張子 .stl はシステム側で管理されます)。
Step 8 — 新規オブジェクトの既定スタイル(グローバル)に設定する
- Tools > General Options を開く
- Default Style のドロップダウンを探す
- 作成したスタイル(EMB Nerd)を選択
- OK


重要: これは「これから作るオブジェクト」にのみ適用されます。すでに作成済みのオブジェクトの設定は自動では変わりません(動画内でもこの点が説明されています)。
Step 9 — 新規オブジェクトで反映をテストする
Jeffは新しい図形を描いて、設定が継承されることを確認しています。
- ツールで新規に図形を作成
- プロパティを確認
- 例:Runが 1.5mm、SatinにContourアンダーレイが入っている、など

なぜカスタムスタイルが効率化につながるのか
カスタムスタイルは単なるショートカットではなく、「標準化」の仕組みです。
テスト縫い(試し縫い)ロスを減らす
現場では、時間も糸もコストです。設定が毎回ブレるほど、テスト縫いの回数が増えます。
- スタイルなし: 設定→縫う→重い→直す→縫う…の往復が増えやすい
- スタイルあり: 自分の“基準レシピ”からスタートでき、修正が必要な場合も差分が明確になります
コメントで多い疑問(要約):既存データを素材に合わせて自動調整できる?
コメントでは「フリースやパーカーに合わせて、プル補正や密度などを自動で変えたい」という趣旨の質問がありました。
動画の主題は“新規オブジェクトに適用するスタイル”ですが、返信コメントでは「Chromaなら .rde(ネイティブ形式)があれば設計として編集できる/.dstなどの機械データは編集が制限される」という整理がされています。
- ポイント: スタイルで“新規作成時の基準”を固めつつ、既存データを素材別に追い込みたい場合は、まず編集可能な元データ形式かどうかを確認する、という順番になります。
Setup
データが完璧でも、枠張りが甘いとシワやズレが出ます。デジタイズ設定と同じくらい、物理側の再現性が重要です。
スタイル名は「用途が分かる命名」にする
「Test 1」「New Style」では後で破綻します。用途が読める名前にします。
Standard_Twill_v1Pique_Polo_v1Structured_Cap_v1
ソフトの“ネイティブ形式”と同じ発想で、物理側も安定させる
返信コメントでも触れられている通り、機械データ(例:.dst)は編集に制限があります。デジタイズは可能ならネイティブ形式で管理するのが基本です。
同様に、物理側も“安定した保持”が前提になります。テンションが毎回変わると、0.2mmのような繊細な補正値は狙い通りに働きにくくなります。
注意: マグネット式の枠を使う場合は磁力が強い製品があります。医療機器や精密機器への影響、指挟みなどの安全面に配慮し、メーカーの注意事項に従って運用してください。
Setupチェックリスト(初回)
- 既定スタイル確認: Tools > General Options で Default Style を再確認
- 適用範囲の理解: 既存オブジェクトは自動更新されない
- 簡易テスト: 新規に単純な図形を作ってプロパティ継承を確認
- バックアップ: 作成した
.stlを別媒体にも保存
量産で位置の再現性を上げたい場合、デジタイズ側の標準化に加えて 刺繍用 枠固定台 のような治具・固定台の導入が検討対象になります。
Operation
新しい素材で問題が出たら、その場しのぎで直すだけでなく「新しいスタイル」として残すと、次回以降が速くなります。
繰り返し用ワークフロー
- 症状を切り分け: 沈む→アンダーレイ不足/隙間→プル補正不足 など
- ベースを開く: File > Special Files > Open Style
- 作業用にコピー: 空ファイルへ貼り付け
- 必要箇所だけ調整: 影響の大きい値から
- 新スタイル保存: 例:
Problematic_Beanie_Style - 既定にするか判断: それが“今後の標準”ならDefaultへ
- 新規オブジェクトで検証: 継承を確認
枠張りのばらつきがボトルネックなら、ミシン刺繍 用 枠固定台 のような固定台で物理側の標準化も合わせると、スタイルの効果が出やすくなります。
チェックポイント(成功基準)
- チェックポイント: ツールで新規作成した瞬間に、プロパティが狙いの値になっている
- チェックポイント: サテンが生地に沈まず、表面に“乗る”感じが出る
- チェックポイント: エッジがギザつかず、Contourアンダーレイの効果が出ている
量産で枠の付け替え回数が多い場合、位置合わせ可能 刺繍枠 のように位置合わせを前提にした運用は、段取り時間の短縮に直結します。
日常運用チェックリスト
- 初回は見張る: 立ち上がりの糸切れ・跳ねを確認
- 裏面確認: サテンの中央に下糸(ボビン糸)が適正に見えるか
- 必要なら微調整: 1.5mmで糸切れが増えるなら、スタイル側で縫い目長さを少し戻して保存
Quality Checks
スタイルは目的ではなく手段です。最終的に“売れる品質”になっているかを確認します。
触って確認する品質監査
見た目だけでなく触感も確認します。
- 触感: サテンが滑らかで締まり、適度に立っているか
- 見た目: RunとSatinの接続部に隙間が出ていないか
設定が合っているのに隙間が出続ける場合、原因はデータよりも「枠内での生地移動」であることが多いです。その場合は保持力・テンションの再現性を上げる方向で、マグネット刺繍枠 のような選択肢を検討する、という流れになります。
Troubleshooting
新しいスタイル運用で起きやすい症状を「症状 → 原因 → 対処」で整理します。
| Symptom | Likely Cause | Fix |
|---|---|---|
| 糸切れ/糸がささくれる | ラン縫い 1.5mm が条件(針・速度・素材)に対して短すぎる | 応急: 速度を落として様子を見る。恒久: スタイル内のラン縫い長さを少し戻して保存。 |
| アウトラインとフィルの間に隙間 | プル補正 0.2mm が生地の安定度に対して低い | 応急: スタビライザーの見直し。恒久: プル補正を上げる、または マグネット刺繍枠 などで保持を安定させる。 |
| 既存デザインが変わらない | スタイル設定がオブジェクト作成後に行われた | 対処: スタイルは“新規オブジェクトのみ”に適用。既存は手動で編集。 |
| ゴワつく/防弾みたいに硬い | 密度が高い、またはアンダーレイが過剰 | 対処: アンダーレイを整理(例:必要な層だけ残す)し、スタイルとして保存し直す。 |
| アップリケで機械が止まらない | Applique Command が None になっている | 対処: オブジェクト設定で Change Colors を選ぶ。 |
Results
Jeffの流れを取り入れると、作業が「勘」から「再現可能な設計」に寄ります。
- 標準化: 自分の基準スタイル(例:Run 1.5mm、Contour追加、補正 0.2mm)を持てる
- 安全性: 元テンプレートを壊さず、コピーで編集できる
- スピード: 毎回同じ設定を探してクリックする時間が減る
刺繍のゴールは再現性です。スタイルはデータ側の再現性を上げ、枠張り・スタビライザーなど物理側の再現性がそれを支えます。両方が揃うほど、テスト縫いの回数が減り、安定した品質で回せるようになります。
