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Cassandra’s White Work Alphabetとは
Cassandra’s White Work Alphabetは、スプリッグ(小枝)、花、フレンチノット、アイレットなどの繊細なモチーフを重ね、サテンの縁取りの「下」に少し濃い“影”の層(シャドー)を入れることで、立体感と奥行きを出すデザインです。いわゆる密度が高くて硬いワッペン風ではなく、ヘアルーム(記念品)らしい軽やかな表情に寄せられるのが特徴。
このガイドでは、Hazelの実演をベースに、Wilcomでの合成→刺繍機での枠張り→刺し順の流れを、作業者目線で「つまずきやすい所にチェックを入れながら」追えるように整理します。完成形は、クッション前面などに使える横長パネルのHGTモノグラムです。
このガイドで身につくこと
- 作業の分割(安全な合成手順):文字データを合成してもパーツがズレにくい「選択→グループ→配置」の基本。
- 枠サイズ制約の管理:刺繍枠の横幅上限(例:200mm)を超えない枠デザインの作り方。
- 見た目センターの調整:数値上は中央でも、人間の目にはズレて見えるときの微調整。
- 素材(ローシルク)対策:滑りやすく歪みやすいシルクを、スタビライザー重ね+バスティングで安定させる。

使用ツールについて(補足) HazelはWilcom Embroidery Studioを使用しています。別ソフトでも、考え方の核(グループ化/コピー/寸法確認/目視バランス調整)は共通です。
よくある不安(コメントより要約)
コメントでは「PC操作がすごい」「ソフトを使いこなせない」といった反応が見られました。ですが、この作業は“センス”よりも手順の型が大事です。
基本の型:「選択 → グループ → 寸法確認 → 整列 → 微調整」
Wilcomでのデザイン作成:文字と枠の合成
ここからはHazelの流れを、作業単位を小さくして説明します。目的は「元データを壊さず」「刺し順が破綻しにくい」合成ファイルを作ることです。

ステップ1 — 空の新規ファイルで作業する(サンドボックスのルール)
ルール:元のデータ(アルファベットのマスター)を直接編集しない。
作業:
- 新規の空ファイルを開く(作業用=サンドボックス)。
- マスターから必要な文字(H・G・T)をコピーして、サンドボックスに貼り付ける。
理由: Wilcomでも他ソフトでも、うっかりリサイズや編集を確定すると、元データの品質を戻せなくなることがあります。合成は必ずコピー上で行うのが安全です。
ステップ2 — 文字は「刺繍オブジェクトだけ」を選択してグループ化
各文字(H・G・T)を、アライメント用の目印(十字など)を避けて選択します。
- 選択:投げ縄(ラッソ)で、文字の刺繍部分(サテン/ランなど)を囲う。
- 確認:外側の目印や余計なオブジェクトを掴んでいないか確認。
- グループ化(Group):すぐにグループ化して、配置中にバラけないようにする。
チェックポイント: 文字Hを素早くドラッグしてみて、全パーツが一体で動くか確認します。どこかが遅れて動く/残る場合は、選択ミスの可能性が高いので取り消してやり直します。
注意:この段階はソフト作業ですが、最終的には刺繍機で枠が動きます。枠のクリップ付近など、押えが当たりやすい“危険域”にデザインが寄りすぎない配置を意識しておくと、後工程の事故を減らせます。
ステップ3 — コーナースクロールから枠を組む(寸法を必ず見る)
Hazelはコーナーのスクロールをコピーし、ミラーや回転で枠を構成します。

重要データ: Hazelはプロパティで幅を確認し、枠パーツが196mmであること、そして自分の枠の横幅上限が200mmであることを前提に進めています。
チェックポイント(現場目線): 196mm/200mmは、枠張りのズレや布の逃げを考えるとギリギリです。初心者ほど、ソフト上で「枠の内側に安全域」を意識しておくと失敗が減ります。
ステップ4 — 入らないモチーフは「縮小で無理やり」ではなく差し替える
Hazelは「Bold Flower」を入れようとしますが、隙間に対して幅が大きく、枠制限にも影響するため削除し、より細いスクロールに差し替えます。

作業の考え方: 隙間に当たる/重なるモチーフを、無理に押し込むと全体幅が増えたり、見た目が詰まりすぎたりします。Hazelは「入らないなら別パーツに替える」という判断をしています。
ステップ5 — 「ミラー+色順ソート」で崩れる場合の回避
起きがちな問題: ミラーしたオブジェクトを色順ソートすると、刺し順が崩れることがある(Hazelもこの点に触れています)。
回避の考え方: Hazelは、単純なミラーだけに頼らず、90度回転などを挟んでからミラーすることで、ソフト側の扱い(向き情報)を整える手順を取っています。
ステップ6 — X/Y=0で整列→最後は「目」で微調整
Hazelは数値で中央(X=0、Y=0)に揃えた後、Gが見た目にズレて見えるため、キーボードの矢印で少し右へ「ナッジ(微移動)」します。

チェックポイント(目視センター合わせ):
- いったんズームアウトして全体を小さく表示し、バランスだけを見る
- 数値が正しくても、文字形状の“重心”でズレて見えることがある
- 最終判断は、グリッドよりも完成見た目を優先する
ステップ7 — 最終サイズ確認:308mmになったらどうするか
合成後の最終幅は308mmとなり、一般的な300mm枠を超えます。Hazelはこれを受け入れ、360×200枠で刺し切る前提に切り替えています。

チェックポイント: 「300mmに収めるために無理に詰める」よりも、「枠に合わせて余白を確保する」ほうが、見た目と安定性の両方で有利になる場合があります(Hazelは“もう300を超えるなら、ゆとりを持たせられる”という判断)。
また、もし日常的にhusqvarna 刺繍枠のサイズ制約で作業が止まるなら、制作フロー自体(枠サイズの選定)を見直す価値があります。
刺繍枠サイズ制限とスペーシングの落とし穴
このタイプの合成で事故が起きやすいポイントを、Hazelの実演内容に沿って整理します。
落とし穴1:上限ギリギリ設計
196mmで200mm上限に合わせると、枠張りのズレや布の逃げが出たときに余裕がありません。
対策: ソフト上で「安全域」を意識し、枠の境界に対して余白を確保できる構成にします。
落とし穴2:隙間に合わないモチーフを押し込む
Hazelが「Bold Flower」を外したのは、隙間に対して大きすぎるからです。
対策: 入らない場合は、差し替え(細いスクロールなど)で解決する。
落とし穴3:自動整列・自動スペースの過信
Gのように左右非対称の文字は、数値センターでも視覚的にズレます。
対策: 自動は“荒合わせ”、最後は矢印キーで微調整。
作業効率の観点:枠の選択がボトルネックになるとき
横長パネルを継続的に作るなら、枠サイズの制約が「デザイン修正の時間」を増やします。作業時間が増えるほど、試し縫い・やり直しのコストも上がります。
その場合、例えばhusqvarna viking 用 マグネット刺繍枠のような選択肢を検討すると、枠張りの安定や段取りの改善につながる可能性があります(運用・安全面は後述の注意も参照)。
ローシルクの枠張り:スタビライザーと固定の考え方
ローシルクは高級で、滑りやすく、歪みが出やすい素材です。枠で強く挟むと枠跡が残りやすく、縫製中のズレも起きやすいのが難点。

Hazelの構成(動画の内容)
- 刺繍枠:360×200の大型長方形枠
- スタビライザー:Stitch ’n Tear(ティアアウェイ)2枚重ね
- 補強:古い刺繍の残りなどのスタビライザー端材ストリップを追加
- 生地:ローシルク(ニュートラル系)
- 固定:最初にバスティング枠を縫ってズレ止め

なぜ2枚重ね+バスティングなのか
- シルクは摩擦が少なく、押えや針の動きで“流れる”ようにズレやすい
- ティアアウェイ1枚だと、サテンや密度のある部分で支持が弱くなることがある
- バスティング枠は、刺繍本体の前に「布とスタビライザーを一体化」させる役割がある
「フローティング(浮かせ)」の位置づけ
シルクで枠跡を避けたい場合、スタビライザーを枠張りして、その上に生地を置く“フローティング”を選ぶことがあります。
このガイド内で触れているフローティング用 刺繍枠のような運用をする場合、固定が弱いと中央が波打つ原因になります。Hazelはバスティングを使って固定力を上げています。
事前チェック(刺し始める前)
- データの安全:マスターではなくコピーを編集したか
- 寸法:枠の制限(例:200mm)とデザイン幅の関係を確認したか
- スタビライザー:Stitch ’n Tearを2枚用意したか
- 追加補強:必要に応じて端材ストリップを足せる状態か
- 枠の設定:刺繍機側で360×200枠が選択されているか
刺繍工程:糸色、順序、仕上がりチェック
ここからは刺し工程です。Hazelは最初にバスティング枠を縫い、その後、淡いシルバー/グレー(Sulky Rayon 1236)→エクリュの順で進め、ホワイトワークの奥行きを作っています。

ステップ1 — バスティング枠で固定
最初にバスティング枠を縫って、布とスタビライザーのズレを抑えます。
チェックポイント: バスティング中に布が波打つ/引っ張られる感じが出る場合は、固定が弱いサインです。早い段階で止めて見直すほうが、シルクのロスを減らせます。
ステップ2 — 影(シャドー)層:淡いシルバー/グレー
最初の色はSulky Rayon 1236(ライトシルバー/グレー)。背景のスカラップや影になるステッチが入り、後で乗るサテン縁取りの“下地”になります。
チェックポイント: 影層がフラットに入っているかを確認します。
ステップ3 — 2色目(エクリュ)でサテン縁取りを重ねる
次にエクリュで、文字やスクロールのサテンが重なり、2トーンの奥行きが完成に近づきます。

チェックポイント: サテンは引き締めが強く、歪みが出やすい工程です。Hazelはスタビライザーを重ね、さらに端材ストリップも使って支持を増やしています。
ステップ4 — ボタンホール風の装飾
動画内では、ボタンホール要素は“切って使う”前提ではなく、装飾として楽しめることにも触れています(切らなくても成立する)。
運用中チェック(刺しながら見るポイント)
- バスティングの形:四角が歪んでいないか(ズレの兆候)
- スタビライザーの噛み込み:2枚目が折れて巻き込まれていないか
- 糸替え後の確認:色替え直後は数針の状態を見てから続行する
注意:マグネット枠の安全
マグネット刺繍枠は強力な磁力で固定するため、指を挟みやすい点に注意が必要です。装着・取り外しは「滑らせる」動きで行い、勢いよく吸着させないようにします。また、医療機器への影響が懸念される場合は使用環境を含めて慎重に判断してください。
段取り短縮の考え方(量産・反復向け)
この種のパネルは刺し時間だけでなく、枠張り・位置決め・バスティングなどの段取りが効率を左右します。
仕上がり:HGTモノグラム・クッションパネル
完成すると、淡いグレーの影が下に入り、エクリュのサテンが上に乗ることで、控えめなのに立体感のあるホワイトワーク調の表情になります。





トラブルシューティング(起きる前に潰す)
| 症状 | 主な原因 | その場の対処 | 次回の予防 |
|---|---|---|---|
| モチーフが枠に当たる/隙間に入らない | パーツが幅に対して大きい | 削除して細いスクロール等に差し替える | 隙間用の細いパーツを用意しておく |
| 刺し順が崩れる | ミラー後の色順ソートで破綻 | 取り消し→90°回転→(必要なら)縦ミラー→色順整理 | 合成後は刺し順プレビューで確認 |
| 輪郭やサテンに歪みが出る | 引き締めで生地が動く | 早めに停止し、支持(スタビライザー)を見直す | 2枚重ねや補強ストリップを前提にする |
| 枠跡(テカり・リング) | 枠の圧で繊維が潰れる | 状態により軽いスチーム等で様子を見る | 枠の当て方を見直す/刺繍枠 刺繍ミシン 用の選定を工夫する |
最終チェック(Go/No-Go)
- 枠選択:刺繍機の枠設定は360×200になっているか
- 向き:デザインの回転方向は枠と一致しているか
- 干渉確認:トレースで四隅を走らせ、どこにも当たらないか
- 糸掛け:糸がテンション部に正しく入っているか
- バスティング:バスティング枠を最初に縫う設定になっているか
まとめ
このプロジェクトの要点は、派手なテクニックではなく、次の3点を崩さないことです。
- 準備(スタビライザーの重ねと補強)
- 制約の把握(刺繍枠の上限と安全域)
- 見た目優先の微調整(数値センターより目視バランス)
仕上がりは繊細でも、工程は再現可能な“型”に落とし込めます。段取りが負担に感じる場合は、モノグラム刺繍ミシンのような設備や、枠の運用(マグネット枠等)を含めて、作業全体の流れで改善点を探すのが近道です。
