目次
端切れで必ずテストするべき理由
マシン刺繍の現場でよく言われる鉄則があります。「ミシンは悪くない。変数が悪い」です。
思い入れのあるベビーブランケットや、やり直しが効かない高価なウェアに名前を入れる前に、まずやるべきは「検証用の試し縫い」です。これは単に“動くかどうか”の確認ではなく、安定の三要素(生地+スタビライザー+糸調子)が噛み合っているかを確かめる作業です。

このBrother PE800の手順では、名前「KINGSTON」をきれいに縫い切ることが目的ですが、同時に初心者がつまずきやすい2つの失敗を避ける設計になっています。
- 「鳥の巣」トラブル: ボビン側(生地裏)で上糸が団子状に絡む現象。糸調子や速度、糸端処理が原因になりやすいです。
- サイズ・配置の失敗: 縫い進めてから「文字が枠の端に当たる」ことに気づく(最悪、枠や押さえ周りに干渉)。
試し縫いは“診断ツール”です。さらに大事なのが、ミシンの音を基準化できること。調子が良いときは一定のリズムで回りますが、絡み始めると音が変わります(動画では「コンク、コンク…」のような鈍い音を合図に止めると言っています)。この「音で気づく力」は、取説を読むのと同じくらい現場で効きます。

補足(変数の考え方): 現場で「糸調子」と言うとき、画面のテンション値だけを指していることは少なく、糸道の抵抗、ボビンケース周りの状態、そして何より枠張りの張り具合まで含めて見ています。テストを本番と同条件(同じ生地・同じスタビライザー・同じ糸)に寄せるほど、原因切り分けが速くなります。
Brother PE800の画面操作:文字(内蔵フォント)とサイズ調整
PE800の内蔵文字は、デジタイズソフトなしで素早く名入れできるのが強みです。操作自体はシンプルですが、「枠に入るか」「どこまで拡大できるか」にコツがあります。
画面操作の流れ:
- 文字(Letters)メニューへ
- フォントを選択
- 名前を入力
- サイズと回転で刺繍可能範囲に収める

最初に「枠」を基準に考える(事前イメージ)
動画では最初にLargeサイズで「KINGSTON」を入れようとして、途中で入り切らないことに気づきます。これは異常ではなく、内蔵文字にはフォントごとに幅の上限があり、5x7の刺繍可能範囲を超えると成立しません。
段取りの目安:
- 文字数を数える: 8文字以上の名前は、5x7枠だとMediumに落とすか、90°回転が必要になるケースが多いです。
- 端ギリギリに置かない: プラスチック枠の縁まで詰めると、引きつれや生地の動きで当たりやすくなります。安全マージン(約5〜10mm)は見ておくと安定します。
刺繍枠の実際の刺繍可能範囲(検索されやすい brother pe800 刺繍枠 サイズ)は、枠の外寸より狭いのが普通です。画面に出る枠内の境界=針が届く現実なので、表示を最優先で判断してください。
サイズ(Size)で拡大し、上限表示を確認する
動画では「KING」を例にサイズを触ると、画面に寸法が表示されます。これは“安全確認”に直結します。

重要ポイント: 内蔵文字は、一定以上の拡大縮小ができないよう制限されています。無理に拡大するとサテンが間延びして引っ掛かりやすくなり、逆に縮小しすぎると糸が詰まって硬くなります。PE800が止めるのは、刺繍品質を守るための制御です。

トラブルシューティング:Large文字が入らない理由
「KINGSTON」がLargeで途中までしか入らないと分かったら、解決策は“押し込む”ことではありません。動画の通り、いったん削除してやり直し、Mediumに切り替えるのが正解です。
無理に小さなスペースへ詰め込むと、縫い密度が過剰になり、次のような不具合につながりやすくなります。
- 針の抵抗増(針が刺さりにくい)
- 生地の波打ち(パッカリング)
- 上糸切れ(摩擦で毛羽立つ)
レイアウトの定番:90°回転で「長辺」を使う
Mediumにしたあと、文字を90°回転して、5x7枠の長い方向(7インチ側)を使っています。

これは量産でもよく使う基本手です。デザインの長い方向は、枠の長辺に合わせると入りやすくなります。
補足(枠張りの重要性): 回転は有効ですが、枠張りが甘いと文字は流れます。刺繍ミシン 用 枠入れ(刺繍ミシン 用 枠入れ)で言われる通り、布目をまっすぐにして、たるみを残さないことが前提です。
糸調子を安定させる鍵:縫い速度を下げる
この動画の核心はここです。速度は糸調子に直結する変数です。
投稿者は、最高速の650spm付近で縫ったときに、ボビン側で上糸がほどける/絡む(鳥の巣)症状が出た経験があると言っています。
対策: 画面のテンションは00(標準)のまま、縫い速度を500spmに下げる。

なぜ速度を落とすと改善するのか(現場感のある理解)
高速運転では、糸の引き出し・針の上下動・布の上下動がすべて激しくなります。
- 糸の暴れ: 糸が勢いよく引き出され、下側でループが出やすい
- 針の挙動: 条件によっては針がわずかに振れ、拾いが不安定になる
- 布のバタつき: 押さえ下で布が上下してループや絡みの原因になる
チェックポイント: 初心者の名入れや、条件が読めない組み合わせでは、まず400〜500spmを基準にすると安定しやすいです。
また、枠の保持が安定すると布のバタつきが減り、結果として高速でも縫いやすくなることがあります。例えば brother pe800 マグネット刺繍枠(brother pe800 マグネット刺繍枠)のように、クランプ力が均一な枠は条件出しが楽になるケースがあります(ただし速度を上げる前に、まずはテストで確認してください)。
注意: 安全最優先。運転中は指・ハサミ・袖口や紐などを針棒周辺に近づけないでください。動作中に押さえ下へ手を入れて糸端を取るのは危険です。
手順:枠張り〜名入れ刺繍を再現するチェックリスト
動画の流れを、現場でそのまま使える「事前点検→実行」に落とし込みます。
準備(材料と条件)
- ミシン: Brother PE800
- 刺繍枠: 5x7 標準枠(または同等サイズ)
- 素材: 綿の端切れ+ティアアウェイ(tearaway)スタビライザー
- 糸: 刺繍糸(一般的な40番相当)

Step 1 — 生地+スタビライザーを同条件で用意する
動画では端切れにティアアウェイを合わせています。
- 判断の目安: 伸びない織物(綿など)ならティアアウェイでも成立しやすいです。
※本番が別素材の場合は、必ず同素材でテストしてください(この動画の主旨も「本番前に同条件で確認」です)。
もし枠張りで生地を均一に張るのが難しい場合、hooping station for embroidery machineのような補助具を使うと、枠を固定した状態で張り込みやすくなります。
事前チェック(省略しない)
- 針・糸の状態: 糸が毛羽立っていない/糸道に引っ掛かりがない
- ボビン周り: 糸が絡んでいない/異物(糸くず)が噛んでいない
- 枠張り: 生地がたるんでいない(軽く叩いて張りを確認)
- 上糸の通し: 糸が正しくガイドを通っている
Step 2 — 枠を装着し、危険ゾーンを片づける
枠をキャリッジに差し込みます。
- チェックポイント: しっかり固定された感触があること(グラつく場合は装着不良)。
- 生地の逃がし: 余った布が針棒側へ入り込まないように外へ逃がします(巻き込み防止)。
Step 3 — 押さえを下げて「スタート可能」状態にする
押さえを下げるとスタートできる状態になります。

Step 4 — 糸端を押さえる(スタート直後の鳥の巣予防)
動作: 最初の数針(3〜5針)だけ、上糸の糸端を軽く持ちます。 目的: 糸端が一気にボビン側へ引き込まれて絡むのを防ぎます。
Step 5 — 数針縫ったら止めて糸端をカット
スタート→数針縫う→いったん停止し、糸端を生地際でカットします。

チェックポイント: 文字の開始位置が汚れていない/長い糸が引きずられていない。
Step 6 — 500spmで縫い進め、音で監視する
速度を500spmに設定して縫います。

音の目安:
- 良い状態: 一定のリズムで回る
- 要注意: 鈍い「コンク、コンク…」や、急に音が重くなる
- 対応: 異音が出たら即停止し、糸絡みの兆候がないか確認します。

補足(枠跡・作業負担の観点): 標準枠で強く締める作業がつらい、または生地に枠跡が出やすい場合は、マグネット刺繍枠(マグネット刺繍枠)の検討ポイントになります。力をかけて押し込まずに固定できるため、作業性と生地への負担が変わります。
実行前の最終チェック
- 文字は90°回転して長辺に収めた
- 速度は500spm(必要ならさらに低速)
- テンションは[00](標準)
- スタート直後は糸端を保持し、数針後にカットする
仕上がり確認:表だけでなく裏(ボビン側)を見る
縫い終わったら、表面の見た目だけで判断しないで、必ず裏面を確認します。

良い縫いの見方(基本)
- 表(上面): サテンが滑らかで、隙間やガタつきが少ない
- 裏(下面): 下糸と上糸が極端に偏っていない


糸調子が崩れているサイン: 裏が上糸色ばかりに見える→上糸が緩い可能性。 裏が下糸ばかりで、表に下糸が引き上がる→上糸が強い可能性。
動画の結果は、表がきれいで、裏も極端な偏りが少ない状態として確認できます。
次の一手(枠跡対策の方向性): 仕上がりは良いのに枠の押さえ跡が気になる場合、brother pe800 用 マグネット刺繍枠(brother pe800 用 マグネット刺繍枠)のような方式に切り替えると、押さえ込みによる跡の出方が変わります。
注意: マグネット刺繍枠は磁力が強く、指を挟むと危険です。ペースメーカー等の医療機器、磁気カード、子どもの手の届く場所を避けてください。保管時は緩衝材を挟み、急に吸着して衝撃が出ないようにします。
運用:再現できる設定と簡単な判断フロー
この動画でうまくいった組み合わせは、ティアアウェイ+テンション00+500spmです。 ただし条件が変わると結果も変わるため、次の順で判断します。
判断フロー(Go / No-Go)
- 名前は枠に収まるか?
- はい: 次へ。
- いいえ: 無理に詰めない。フォントサイズを下げる(Large→Medium)か、90°回転する。
- 生地は伸びるか?
- 伸びない(織物): ティアアウェイでテストしやすい。
- 伸びる(ニット等): まずは同条件でテストし、必要ならスタビライザーを見直す。
- 厚みがあり枠張りしづらいアイテムか?(例:タオル、バッグ等)
- はい: 標準枠だと固定が不安定になりやすいので、brother pe800 用 マグネット刺繍枠や互換サイズのbrother 5x7 マグネット刺繍枠を検討し、まずテストで保持力を確認する。
- いいえ: 標準枠で進行。
- 650spm付近で糸絡み・糸の乱れが出るか?
- はい: 400〜500spmへ落として再テスト。
- いいえ: 条件が安定している範囲で運用。
仕上げチェック(縫い終わり)
- 裏面を見て、糸が極端に偏っていないか確認
- 飛び糸(ジャンプ)や糸端を小バサミで処理
- スタビライザーを無理に引っ張らず、縫い目を歪ませないように除去
トラブルシューティング(症状 → 原因 → 対策)
| 症状 | ありがちな原因 | 低コストでの対策 | 現場向けの対策 |
|---|---|---|---|
| 鳥の巣(ボビン側の糸絡み) | 上糸の通しミス/スタート時の糸端処理不足/速度が高すぎる | 上糸を最初から通し直す。スタート直後は糸端を持つ。速度を500spmへ。 | ボビン周りの糸くず確認。異音が出たら即停止し、絡みを早期に除去。 |
| 文字が枠に入らない | Large設定で幅が上限超え | Mediumに変更し、90°回転で長辺を使う | 画面の境界(刺繍可能範囲)を基準にレイアウトを組む |
| 枠跡が気になる | 標準枠で強く締めた/生地がデリケート | 仕上げ後に整える(生地に合わせてケア) | マグネット刺繍枠でクランプ方式を見直す |
| 縫い中に音が急に変わる | 糸絡みの前兆/糸がどこかで引っ掛かり | すぐ停止して確認 | 速度を落として再テストし、安定条件を固定する |
次に自信を持ってできること
端切れで条件出しをして、文字を枠に収め、速度を500spmに落として安定させ、表裏で糸調子を確認する——この流れが身につくと、名入れ刺繍の失敗率は大きく下がります。
この手順は「名前を縫う」だけでなく、本番前に安全なワークフローを作るための型です。端切れで再現できたら、次は本番のブランケットでも同じ考え方で進めてください。
