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1 プロジェクトの概要
このガイドは、アップグレード後の Innov-is XV でできることを、作業順に落とし込んだ実用チュートリアルです。とくに My Design Center のスキャン&編集、ステップリングの自動生成、トラプント風の段取り、JPG からの刺繍化、色と密度の最適化、新サイズのフレーム活用、複数デザインの一括管理にフォーカスします。
適した場面は次のとおりです。
- オリジナル画像を“面”と“線”に分けて、装飾フィルやラインステッチを使い分けたい。
- キルトのトップに、デザインの周囲へ均一なステップリングを入れて仕上げたい。
- 芯材を使ってモチーフをふっくら見せるトラプント風効果を再現したい。
- 複数のワッペン(アプリケ)やボビンワークを、1つのフープ画面で効率よく組み合わせたい。
なお、本稿では機能の正確な理解を重視し、数値・名称は動画に登場した範囲に限定しています(例:My Design Center のズーム上限は800%、アウトラインの距離調整は3.2mm表示、Auto Density は60%〜200%に対応、Color Shuffling の色数は8 など)。
プロジェクト企画段階で、素材の保持方法を検討しておくと安心です。例えば厚地や多層のキルトでは、フレームの保持が作業の安定度を左右します。一般論として、磁力で布を保持する マグネット刺繍枠 を併用すると“浮き”が抑えやすくなるケースがありますが、機種適合や取扱いには十分注意してください。
2 準備するものと前提条件
前提条件
- Innov-is XV 本体にアップグレードキットが適用済みであること。
- 機械の基本操作(フーピング、糸かけ、画面での選択・編集)に慣れていること。
主な道具
- 刺繍ミシン本体、スキャニングフレーム、スタイラスペン、USB デバイス、刺繍フレーム。
- 素材:生地、キルト綿(トラプント風)、裏当て、糸。
作業環境
- フーピングとスキャンのために十分に片付いた作業面を確保します。
- 取り込む原画(紙・シートなど)は、スキャニングフレームで平らに保てるサイズに整えます。

素材保持については、標準フレームのほか、作業目的に応じて 刺繍用 枠固定台 を併用すると位置合わせの再現性が上がります。これはとくに“繰り返し配置”や“同寸リピート”が多い場面で効果的です。
クイックチェック
- 取り込む画像はコントラストがはっきりしているか。
- フレームに布が均一な張力で留められているか。

- 針板・押さえ周辺に不要物がないか。
3 セットアップ:スキャンと表示の最適化
3.1 スキャン準備と画像の位置決め
原画をスキャニングフレームに固定し、機械へセットします。内蔵カメラでスキャンし、画面上でフレームと画像の関係を確認します。枠内に必要な要素がすべて入っていること、傾きが意図どおりであることをチェックします。
プロのコツ
- スキャン前に原画の不要な影やシワを避けると、輪郭抽出が安定します。
3.2 フレーミングと属性プランニング
取り込んだ画像の“どこを線にするか/どこを面で埋めるか”を先に決めておくと、後の編集がスムーズです。画面上でフレーミングを微調整し、必要に応じて拡大表示でエッジを確認します。

注意
- フレーミングが狭すぎると一部が欠けて取り込まれます。必要なら再フレーム→再スキャンを行いましょう。
3.3 新しい形状・ステッチ・ズーム・領域属性
- 30種類のクローズドシェイプと、30種類のオープンシェイプから選択可能。
- 線種にはキャンドルウィック/チェーンが追加。輪郭やディテールの変化付けに有効です。


- My Design Center のズームは最大800%になり、ピクセルレベルでの境界調整が楽になります。
- 面(リージョン)ごとに属性(装飾フィル/色)を変えて仕上がりを作り分けられます。

クイックチェック
- ズーム800%で境界が意図通りに閉じているか。
- 線種と太さの見え方がデザインの雰囲気と一致しているか。
補足として、対応フレームや周辺アクセサリーは機種ごとに異なるため、適合の明確な製品表記(例:マグネット刺繍枠 brother 用)を確認してから導入するとミスマッチを避けられます。
4 手順:画像→刺繍化、ステップリング、トラプント風、JPG からの作成
4.1 画像を刺繍データに変換(My Design Center)
手順 1) 原画をスキャニングフレームに載せ、機械でスキャン。 2) 画面上でフレーム位置を調整し、画像を面・線に分けて配置。 3) クローズド/オープンシェイプを選び、必要に応じて追加・修正。 4) 線種(キャンドルウィック、チェーン)を指定。 5) 面は装飾フィルを選択。色もリージョンごとに決定。 6) プレビューで整合を確認し、刺繍を開始。

期待結果
- 取り込んだ画像のテイストを保ちながら、刺繍として破綻のない線・面・方向が付与されていること。
プロのコツ
- 複雑な図案は“外形→主要面→細部線”の順に決めると迷いが減ります。
この段階では、縫製中の素材保持も重要です。一般論として、広い面を多く縫うときは brother ミシン の安定感に加え、フレームの滑り止め・クランプの使い分けが仕上がりの平滑性に影響します。
チェックリスト(画像→刺繍化)
- スキャン範囲:必要要素が全て入っている
- ズーム:境界の閉じ漏れなし(800%で確認)
- 線種:キャンドルウィック/チェーンの選択意図が明確
- 面:装飾フィルの密度と方向が妥当
4.2 ステップリングを自動生成(Embroidery Edit)
手順 1) 既存の刺繍デザインを選択。 2) ステップリング機能を呼び出し、距離・間隔などのパラメータを調整。 3) プレビューで“カバーできている範囲”と“密度”を確認。 4) 刺繍を開始。

期待結果 - モチーフの周囲に均一なステップリングが入り、キルトの凹凸と視線誘導を高めます。

注意
- 密度が高すぎると硬く、低すぎると間延びします。プレビューでバランスを見ましょう。
チェックリスト(ステップリング)
- カバー範囲:モチーフを均等に囲っている
- 間隔:見た目と手触りが“やわらかさ”に一致
- プレビュー:開始前に配置ずれがない
4.3 トラプント風刺繍:ふくらみを作る段取り
手順 1) 刺繍デザインのアウトラインを保存。 2) アウトラインの距離を調整(例として画面で3.2mm表示)。

3) 本体生地へアウトラインを縫い、位置を確定。 4) 裏当てとキルト綿を、本体生地の下に敷く。

5) 先ほどのアウトラインをスキャンで呼び込み、領域を再認識。 6) 領域に装飾フィルを選択(10種類のパターンから)。

7) 芯材の上からフィルを縫い、ふくらみを固定。
期待結果
- 中央モチーフが周囲より高く見え、立体感が生まれます。
プロのコツ
- 芯材・裏材は“しわゼロ”が理想。しわは輪郭の影となって残ります。
クイックチェック
- アウトライン距離:ふくらみの出方と見合うか
- 芯材:過不足がないか(厚すぎると段差が強すぎる)
- プレビュー:スキャン画像上で領域とフィルが一致しているか
4.4 JPG からキルト用オリジナル刺繍を作る
手順 1) USB から JPG を取り込み。 2) キルト片をフープに張り、機械へセット。 3) フープ内をスキャンし、JPG を画面上で位置合わせ。

4) 必要に応じて拡大・回転、リージョンと線の属性を編集。 5) 刺繍を開始。
期待結果
- JPG の意匠が刺繍データへ変換され、キルト片に正確に縫い付けられます。
注意
- 低解像度 JPG は輪郭が甘くなります。できるだけ高解像度を用いましょう。
チェックリスト(JPG 刺繍)
- 取り込み:USB から正しく認識
- アライン:フープスキャンに対して位置決め済み
- 属性:リージョン/線の設定に矛盾なし
5 仕上がりチェック:見た目・触感・配置の基準
5.1 新しいフレームと保持品質
新しいフレームは 9.5"×9.5"(24×24cm)と、9.5"×14"(24×36cm)の2種が示され、内側両側のラバーによりグリップが向上し、滑りを低減してステッチ結果の安定に寄与します。

プロのコツ
- 広い面積を縫うほど保持力の差が仕上がりに表れます。長辺方向のたるみが出やすいと感じたら、フレームサイズの再検討や保持方法の工夫を。
また、長辺方向の余裕が必要な場面では、製品仕様に合うサイズ(例:マグネット刺繍枠 11x13 のような表記)を情報収集して選ぶのがおすすめです。必ず適合機種を確認しましょう。
5.2 テキスト編集と整列
テキスト編集機能は拡張され、整列ツールで文字列をきっちり並べられます。挿入・削除も容易になり、グループ化/解除で複数要素を一括編集できます。

クイックチェック
- 文字のベースラインが揃っている
- グループ操作後もスケール比が崩れていない
5.3 密度・色の最適化と複数デザイン配置
- Auto Density Adjustment:60%〜200%の範囲でサイズ変更しても、密度を自動補正。
- Color Shuffling:色数8パレットから外観を試行。ランダム/ビビッド/グラデーション等をプレビュー。
- Color Sort:複数デザイン結合時に色順で並び替え、糸替え回数を削減。
- 複数アプリケ・複数ボビンワーク:1画面で同時にレイアウトでき、フープ内での収まりを俯瞰できます。
一般に、複数デザインを1フープで回す“ミシン刺繍 マルチフーピング”は段取りの巧拙が品質と時間を左右します。プレビューと色管理をセットで活用すると、やり直しを最小化できます。
6 完成イメージと次アクション
完成像
- スキャン画像のディテールを保ちつつ、面と線の属性が活きた仕上がり。
- キルト用途では、モチーフ周囲のステップリングが面の張りを整え、視線を導きます。
- トラプント風は中央のモチーフに立体感が付き、陰影が強調されます。
次アクション
- 子ども向けバッグやアクセサリーなど、内蔵パターンの組み合わせ制作。
- 新しいレタリングでネームやモノグラムを追加。
- 大型フレームを活かしたワンパス制作の検討。
参考として、適合記載が明確なフレーム(例:brother 刺繍枠 として販売される純正・適合品)を選ぶと、保持の再現性が高まりやすいです。
7 トラブルシューティングとリカバリー
症状→原因→対処の順で整理します。
1) スキャン画像の一部が欠ける
- 原因:フレーミング不足/傾き過多
- 対処:フレームを広げて再スキャン。必要に応じて原画の置き直しと影除去を実施。
2) 面の装飾フィルがはみ出す・欠ける
- 原因:境界が閉じていない/拡大不足
- 対処:800%まで拡大してギャップを閉じる。領域を再指定。
3) ステップリングが詰まり過ぎる/スカスカ
- 原因:距離・間隔の設定不適切
- 対処:プレビューで見直し、数クリックずつ調整→再確認。
4) トラプント風のふくらみが弱い/偏る
- 原因:芯材の厚み不足/片寄せ、裏当てのシワ
- 対処:芯材を適量に調整し、フープ内で平滑にセット。輪郭の再認識でズレを修正。
5) 配色がちぐはぐに見える
- 原因:色の相互作用の見落とし
- 対処:Color Shuffling で複数案を比較。8色パレット内で“主役色”を決めてから微調整。
6) 複数デザインの一括編集がずれる
- 原因:グループ化単位の誤り
- 対処:必要な要素だけを選び直し、グループ化/解除を使い分ける。
7) 糸替えが多すぎて手間
- 原因:色順の最適化不足
- 対処:Color Sort で色順を並び替え、糸替え回数を削減。
8) USB 転送が非効率/誤削除が不安
- 原因:個別操作の繰り返し/確認不足
- 対処:複数ファイル選択で一括コピー、削除時は“選択中のファイル名”を声に出して確認。
プロのコツ
- 量産前に“最小単位の試し縫い”を行い、密度・色・方向をチェック。本番は Color Sort を適用し、糸替え手順を短縮してから開始すると安定します。
さらに、保持具の選定は品質直結です。一般論として、目的や素材に応じて 刺繍枠 とクランプや保持治具を使い分けると、縫い縮みの抑制につながります。場合によっては機種適合の明記された マグネット刺繍枠 brother 用 のような製品群の情報を参照し、作業性の高い組み合わせを検討してください。
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補足:ハードウェア拡張の着眼点
- 9.5"×9.5"/9.5"×14" の新フレームは、ラバーによるグリップ向上で滑り低減に寄与。
- 内蔵レタリングとデザインが拡充。子ども向けのパターン組み合わせも可能。
- 複数アプリケや複数ボビンワークを1画面で配置でき、フープ内の面積を効率的に使えます。
導入の一歩
- 大型化したフレーム運用や、プレビューと色最適化を組み合わせるだけでも、仕上がりの“ムラ”と作業時間は大きく改善します。段取りの最後に USB 上のデータを整理しておくと、次案件への切り替えもスムーズです。
最後に、外部アクセサリーの選択時は必ず適合情報を確認しましょう。適合が不明なまま導入するより、メーカー表記や型番を揃える(例:製品名に“マグネット刺繍枠 brother 用”や“機種名+サイズ”が明記)ほうが、組み合わせの齟齬を防げます。量産案件や定位置レイアウトが多い方は、刺繍用 枠固定台 を併用して位置決めの再現性を高めるのも有効です。
で示したように、線・面・ズーム・領域属性の4点を一貫して扱えるのがアップグレードの強みです。次の案件では、複数デザインの同時配置と色管理を合わせ、効率も表現力も引き上げてみてください。
