目次
刺繍データを無線送信にする理由
USBメモリを持ってPCと刺繍ミシンを往復する作業、現場では地味に効きます。コストはUSBそのものではなく、作業の流れ(段取り)が途切れること。業務用刺繍ではリズムが品質と生産性に直結します。
無線送信にすると、基本動作が「選ぶ→確認する→送る→縫う」に固定され、再現性のあるワークフローになります。本記事は、そのための作業標準(SOP)として使えるように、Baby Lock Flare(および対応機種)+Windows用「Design Database Transfer」の画面手順に沿ってまとめています。

Step 1: Baby Lock本体をWi-Fiに接続する
最初の壁はネットワーク設定です。刺繍ミシンもPCやスマホと同じ「ネットワーク上の端末」なので、同じ精度でセットアップします。
1) Wireless LANをONにする
本体LCDのWi-Fiアイコン(電波の波形)を探してタップし、ネットワーク設定に入ります。
チェックポイント: Wireless LANをONに切り替えると、表示が青(または強調表示)になります。グレーのままなら無線が有効になっていません。

2) Wireless LAN Setup Wizardを実行する
Wizard(ウィザード)で周辺のネットワークを検索します。ここが一番つまずきやすいポイントです。PCが接続しているものと同じSSID(ネットワーク名)を選んでください。
パスワードは画面キーボードで入力します。
注意: Wi-Fiパスワードは大文字/小文字を区別します。小文字「a」と大文字「A」違いが、接続できない原因として最も多いです。OKを押す前に1文字ずつ見直してください。
チェックポイント: 画面に「Connected to wireless LAN」と表示されるまで次へ進まないでください。


3) ミシン名(Network Name ID)を控える
本体の設定画面でMachine Nameを確認します。
- 例:SewingMachine067
店舗や教室などで複数台が同じWi-Fiにいると、似た名前が並んで混乱します。後でPC側で追加するときに必要なので、必ず控えておきます。
期待される状態: ミシン名をメモして、PCの近くに貼っておく。

4) 任意:ファームウェアのバージョン/更新表示を確認
動画ではファームウェア(例:1.53)が表示され、Wi-Fi経由で更新の有無が分かることが紹介されています。ただし、更新データ自体はUSBメモリで適用する流れになります。
補足: 接続の安定性に関わる更新が入ることもあるため、可能なら最新化を意識すると後々のトラブルが減ります(ただし納期直前など、リスクが高いタイミングでの更新は避けましょう)。
Step 2: Design Database Transferをダウンロード&インストール
このソフトが、PC上の刺繍データとミシンをつなぐ橋渡しになります。
1) Baby Lock公式サイトから入手(Windows専用)
Windows PCで babylock.com にアクセスし、検索から Design Database Transfer を探してダウンロードします(アクセサリー/ソフトウェア側に出てきます)。
補足(重要): このユーティリティはWindows専用です。Apple/Macでは動作しません。

2) インストールが不安定な場合は保護ソフトを一時停止(必要時のみ)
インストール時にセキュリティソフトやファイアウォールが通信関連の設定をブロックすることがあります。うまく入らない場合は、インストール中だけ一時停止し、完了後すぐに戻します。
期待される状態: デスクトップに「Baby Lock Design Database Transfer」のアイコンが作成され、起動できる。
コメントで多い注意点:「ページが見つからない」
公式サイトのリンク切れ(404)でダウンロードできないケースが報告されています。その場合は、怪しい配布サイトを探すのではなく、Baby Lockに直接問い合わせて正規リンクを案内してもらうのが安全です(販売店経由でも可)。
Step 3: ソフト画面の見方(送る前の“検品”)
刺繍データ(.PES/.DSTなど)は「画像」ではなく「縫い指示」なので、Windowsのエクスプローラーだけだと中身が見えにくいことがあります。このソフトを使うとサムネイル表示でき、送信前に内容確認ができます。

1) フォルダ移動とサムネイルサイズ切替
左側がフォルダ(保存場所)のツリーです。データの保管場所へ移動し、表示を大きいサムネイルに切り替えると確認が楽になります。
2) Property Boxでデザイン情報を読む
デザインを選択し、Property Box(紙+吹き出しのアイコン)を開きます。ここが事前確認の要点です。

チェックする項目(現場目線):
- ステッチ数: ステッチ数が多いデザインほど、布の負荷が増えます。送信前に把握して、スタビライザー選定や段取りに反映します。
- サイズ(縦横寸法): 使用する刺繍枠に収まるか。わずかなオーバーでもエラーや想定外の欠けにつながります。
- 色数/色順: 上糸の段取り(糸立て)を先に決められます。
現場のコツ: 高密度でズレが許されないデザインほど、枠張りの保持力が仕上がりを左右します。そういう場面では magnetic embroidery hoop のように均一な保持力で布ズレを抑えやすい治具を検討する、という考え方になります。
3) 単位をmm→インチに切り替える
インチ表記で作業したい場合は、Option → Select System Unit → Inch。
チェックポイント: 寸法表示がインチに切り替わっていることを確認します。

4) Print Previewで紙の段取り表を作る
File → Print Preview でプレビューできます。

現場のコツ: 印刷した用紙を「その品物に付けて流す」と、色替えやデータ取り違えが減ります。複数人で回す現場ほど効果があります。
Step 4: PCと刺繍ミシンをペアリング(追加)する
ここが“握手(ハンドシェイク)”の工程です。
1) Network Machine Settingsを開く
ツールバーの「ミシン+Wi-Fiマーク」のアイコンをクリックして、接続設定を開きます。

2) Add(追加)で検索する
Add をクリックします。
重要な前提: ミシン本体が起動完了(初期化完了)している必要があります。電源ONだけでなく、画面に触れて初期動作が終わっている状態にします。待機画面のままだと、ネットワーク上で見つからないことがあります。
チェックポイント: 検出されたミシン名の一覧が表示される。

3) 正しいミシン名を選んで追加する
Step 1で控えたミシン名(例:SewingMachine067)を選び、Add → OK。

期待される状態: メイン画面の「Send To(送信先)」が、そのミシンに設定されます。
よくある質問(コメントより要約):「Addを押しても何も出てこない」
検索が「done」になっても一覧が空のまま、という相談が複数あります。まずは次を順に確認してください。
- 起動完了しているか: ミシンがスタート画面を抜け、初期化が終わっている。
- Wi-FiがONか: 本体側でWireless LANが有効。
- SSIDが完全一致か: PCとミシンが同じSSIDに接続。
それでも見つからない場合、コメントでは「家の中にWi-Fi電波(SSID)が多すぎて混乱する」ケースがあると補足されています。その対策として、ミシンの近くに専用の無線ルーターを置き、PCとミシンをそのルーターに接続する方法が紹介されています(インターネット接続が目的ではなく、ローカルLANを“きれいに”する考え方)。
Step 5: デザインを送信して、ミシン側で呼び出す
1) Writing Listに入れる(送信キュー)
送りたいデザインを選び、青い下向き矢印をクリックして「Writing List(待機リスト)」に入れます。

チェックポイント: 画面下のキュー領域にデザインが追加される。
2) 一度に大量送信しない
送れるからといって、何百件も入れるとミシン側の一覧が探しにくくなります。基本は「今やる分だけ」を送る運用が安全です。
3) Writing Listから削除(キューの整理)
間違えたら、キュー内のデータを選んでゴミ箱アイコンで削除します。これはキューから外す操作で、PC上の元データを消す操作とは別です。
4) ミシンへ転送する
大きい Transfer(ミシン+青矢印) アイコンをクリックします。

チェックポイント: 進捗バーが進み、「Finished outputting data」の表示が出る。
5) 容量バー(ミシン内メモリ)を確認
画面下に青い容量バーが表示され、ミシン内ストレージの使用状況が分かります。

補足: 送信エラーが続く場合、容量がいっぱいの可能性があります。ミシン側で不要データを削除して空きを作ります。
6) ミシン側でデザインを呼び出す
- 本体で Pocket(メモリ) をタップ
- Wi-Fi/クラウド のアイコンを選択
- 送ったデザインを選ぶ
- Set を押す

期待される状態: 刺繍編集画面にデザインが読み込まれ、枠張り→縫いに進めます。
ここから“実際の生産効率”につながる話
データ送信が速くなると、次に時間を食うのは物理段取り(枠張り)です。ロット(例:ポロシャツ20枚)になるほど、ネジ式フープの締め/緩めの反復で手首が疲れ、テンション差や枠跡のムラが出やすくなります。
現場の選択肢: そういうタイミングで、 マグネット刺繍枠 babylock 刺繍ミシン 用 のような治具を検討する人が増えます。着脱が速く、保持力が一定になりやすいのが理由です。
よくある接続トラブルと対処
トラブル時は焦らず、低コストの確認から順に潰します。
| 症状 | ありがちな原因 | まずやること |
|---|---|---|
| 「WLANに接続できない」 | パスワード誤り(大文字小文字違い) | パスワードを再入力。1文字ずつ確認。 |
| 「検索が終わるが、ミシンが出てこない」 | ミシンが未初期化/SSID不一致 | 1. ミシンを起動完了まで進める<br>2. SSID一致を確認<br>3. ルーター再起動 |
| 転送エラー/送れない | ミシン内メモリ不足 | ミシンのPocket内データを削除して空きを作る(容量バーも確認)。 |
| PES取り込み時に毎回再インストールを求められる | Windows側の権限/環境不具合 | 管理者として実行。それでも改善しない場合はBaby Lockサポートへ連絡。 |
準備(見落としがちな消耗品と事前チェック)
データはデジタルでも、刺繍は機械加工です。スタート前に物理条件を揃えます。
見落としがちな消耗品リスト
- 針の選定: ニット/ポロはボールポイント、布帛はシャープが基本。針が傷んでいると打音が増え、品質が落ちやすいです。
- 下糸(ボビン糸)残量: 大きい塗り(フィル)に入る前に確認。途中で切れると復旧が大変です。
- 仮止めスプレー/テープ: 浮かせ(フローティング)で固定する場面に必須。
「枠固定台(フーピングステーション)」という考え方
デザインが常に数度ズレる、中心が安定しない場合、原因はデータではなく物理アライメントのことがあります。外枠を固定して位置合わせしやすくする 刺繍用 枠固定台 のような道具(枠固定台)を使うと、胸ロゴなどの再現性が上がります。
送信前チェックリスト(Transferを押す前)
- ネットワーク: ミシンのWi-Fi表示が青(ON)。PCとミシンが同一SSID。
- ソフト: Design Database Transferを起動。Property Boxでサイズ/ステッチ数を確認。
- 機材: 生地に合う新しい針。
- 段取り: 色順に上糸を準備。
- 枠張り: ステッチ数に合わせてスタビライザーを選定(高密度=カットアウェイ系を検討)。
セットアップ(「一度できた」ではなく「毎回安定」させる)
“送るリスト”をきれいに保つ習慣
刺繍ミシンのメモリを倉庫にしないこと。
- 毎朝、ミシン内データを整理
- その日の分だけ送信
- 必要ならPrint Previewを段取り表として運用
分岐:あなたに合う「転送+枠張り」運用は?
A:単発(趣味・一点物)
- 例:タオルにイニシャル
- 転送:無線は便利
- 枠張り:標準フープで十分。ループ地は水溶性トッパーを検討。
B:副業〜小ロット量産(50枚以上)
- 例:ポロシャツに企業ロゴ
- 転送:PCで次データを準備しながら送れるため有利
- 枠張り:ここがボトルネック。標準フープは枠跡が出やすく、テンション差も出やすい。
- 選択肢: Baby Lock マグネット刺繍枠 のような治具で着脱と保持を安定させる考え方があります。
ペアリング前チェックリスト(Addする前)
- ミシンが起動完了(初期化完了)している。
- Machine Name(例:SewingMachine067)を把握している。
- PC側のファイアウォールがアプリをブロックしていない。
運用(チェックポイント付きの手順まとめ)
- ミシン側: Wireless LANをON。チェックポイント: Wi-Fi表示が青。
- PC側: ソフトを起動し、デザインを選ぶ。
- 事前検品: Property Boxでサイズ/ステッチ数/色順を確認。
- 単位: 必要ならInchに変更。
- ペアリング: Network Settings → Add → ミシン名選択 → OK。チェックポイント: 送信先にミシン名が出る。
- キュー: 青矢印でWriting Listへ。
- 転送: Transferを実行。チェックポイント: 完了メッセージ。
- ミシンで呼び出し: Pocket → Wi-Fi/クラウド → Set。
注意(機械安全): ミシンの初期化(キャリッジ移動)中はアームが素早く動きます。手や物を可動域に入れないでください。
注意(マグネット安全): マグネット刺繍枠 は強力な磁石を使用します。指を挟む危険があるため、着脱時は指の位置に注意してください。また、ペースメーカー使用者は使用しないでください。磁気カードや精密機器にも近づけないでください。
枠張り(枠入れ)の再現性を上げたい場合は、 刺繍ミシン 用 枠入れ の工程で「人の締め加減」という変数を減らすのが基本です。一定の保持力を作りやすい治具は、 babylock 刺繍ミシン を使った作業でも安定化に役立つことがあります。
Transfer直前チェックリスト
- サイズ: 選んだ刺繍枠の範囲に収まる。
- 色: 色順が分かる(印刷またはメモ)。
- キュー: 送るのは正しい版(Final_v2など)。
- 容量: ミシン容量バーが赤ではない。
結果
この手順で、刺繍データをUSBなしでPCからBaby Lockへ送信し、ミシン側で呼び出して縫い工程へつなげられます。
できるようになること:
- PCとミシンを同一ネットワークで安定接続する
- 送信前にステッチ数/サイズ/色順を確認して段取りミスを減らす
- ミシン内メモリを整理し、転送詰まりを防ぐ
次の改善ポイント: データ転送がスムーズになったら、次は物理段取り(枠張り)の摩擦を見直す番です。枠張りが負担になっている、難しい素材でズレが出る、枠跡が気になる場合は、 magnetic hoops や 刺繍用 枠固定台 を検討するのが、無線化と同じくらい効果的な改善になります。
