目次
マスタークラス:Baby Lock Pathfinderで行う高精度モノグラム配置
Baby Lock Pathfinderの概要
モノグラムを縫い終わってから「3mm上だった」「ほんの少し回転している」と気づいた経験があるなら、刺繍で一番難しいのは縫製そのものではなく、位置決めだと実感しているはずです。
本稿では、Moore’s Sewing CenterのGeorge MooreとBiancaがBaby Lock Pathfinderをレビューしながら、繊細なハンカチにモノグラムを載せるための、再現性の高い手順を実演します。ポイントはIQ Sensor Pen(デザイン位置合わせ用センサーペン)を使うことで、プラスチックテンプレートや目測に頼らずに位置合わせできる点です。

このガイドで身につくこと
- 機能の実力:Pathfinderのどの機能が後処理(糸切り・掃除)の時間短縮に効くのか。
- センサーペンの使いどころ:単なるセンタリングだけでなく、わずかな角度ズレを補正する考え方。
- 手順の型:2点指定でモノグラムをセンターに合わせる、検証済みの流れ。
- 事故防止:レース縁が波打つ/生地が寄るのを避けるための事前チェックと安定化のコツ。
補足(対象範囲):本稿は、粘着タイプのスタビライザーに生地を貼り付ける「浮かせ(フローティング)」手法に焦点を当てます。ミシンと繊細素材の双方に無理が出にくいよう、手順を安全側に寄せて整理しています。
主要機能:家庭機の枠を超える実用性
Pathfinderはハイエンド家庭機として紹介されることが多い一方、実務目線では「趣味」と「小ロット生産」の間を埋める設計です。特に価値を感じやすいのが、8 x 12インチの刺繍範囲と7インチのタッチパネル。疲れているときほど、画面での視認性と操作の迷いの少なさが、位置合わせの精度に直結します。

スペック要点(現場ではこう効く)
- 刺繍範囲(8x12インチ):枠の付け替え回数(枠張り回数)を減らせます。段取りが整っていれば、ナプキンなど複数点をまとめて進める際に効率が出ます。
- 縫製スピード(画面表示で800 spm):速く縫える=常に速い方が良い、ではありません。繊細なハンカチ用途では、速度を落とすのが安全です。
- 初心者の目安:600〜700 spm。糸調子の余裕が増え、薄地での引きつれ(パッカリング)リスクを下げやすくなります。
- 内蔵データ:263デザイン、19書体。
作業時間を削る「効く機能」
動画で強調されているのは、刺繍の「面倒な部分」を減らす機能です。
- ハンズフリー糸通し:目の負担を減らし、段取りの再現性も上がります。

- 自動ジャンプ糸カット:文字間などの渡り糸を自動で処理します。チェックポイント:正常に動作していれば、鋭い「パチン」というカット音がし、裏面の渡り糸が過度に残りにくくなります。
- 自動しつけ(オートバスティング):デザイン外周にゆるい固定縫いを入れます。

現場のコツ:粘着スタビライザーに貼り付ける方法で進める場合、しつけ機能は基本的にONが安全です。密度の高いモノグラムに入る前に、生地をスタビライザーへ物理的に固定できるため、縫製中の「じわっとズレる」事故を抑えられます。
編集と接続
タッチパネルで、サイズ変更や色の調整などをその場で行えます。


小規模事業では、USBでロゴデータを素早く取り込み、プレビューで確認しながら進められる点が段取り短縮につながります。
IQ Sensor Pen 技術の要点
IQ Sensor Penは、テンプレートを当てて目視で合わせる手間を置き換える発想です。従来は「枠張りを完璧に真っ直ぐ」が前提になりがちですが、この機能では「だいたい真っ直ぐ」に枠張りしても、機械側が補正できる余地が生まれます。
この手順で機械に与える情報は、次の2点です。
- 中心点:印を付けた「X」の交点。
- 向き(角度)点:「X」の上側の点。
2点目はコンパスの役割で、生地がどの角度に回っているかを機械が把握し、補正に使います。
「枠跡(枠焼け)」の背景
薄地のハンカチは、通常の刺繍枠で挟むと圧痕が残りやすく、いわゆる枠跡が問題になります。粘着スタビライザーでの貼り付けはこれを避けやすい一方、量産現場では粘着の手間や糊残りを嫌って、粘着式 刺繍枠 刺繍ミシン 用やマグネット系の保持方法を検討するケースもあります(後半の判断フローで整理します)。
手順:ハンカチにモノグラムを正確に配置する
ここからはBiancaの実演をベースに、初回で成功させるための「事前チェック」を追加した手順です。

フェーズ1:準備(安定の物理)
Biancaはハンカチに「X」の印を付け、刺繍枠にはWet N Gone Tacky(水溶性の粘着スタビライザー)を枠張りしています。台紙を剥がして粘着面を出し、ハンカチを上からなでて貼り付けます。

見落としやすい消耗品と物理チェック
画面操作に入る前に、まず「現物側」を整えます。
- 針:75/11または70/10のシャープ系/刺繍針が目安。ニット用のボールポイントや摩耗した針だと、薄いリネン系で穴が目立ったり、糸切れ・引きつれの原因になります。
- スタビライザー:Wet N Gone Tackyは水溶性。ここが重要です。ティアアウェイだと剥がすときに縫い目へ負担がかかり、カットアウェイだと残りが見えやすい。水溶性なら洗いで抜け、仕上がりが柔らかくなります。
- 印(マーキング):動画でも言及の通り、鉛筆ではなく水で消えるペンが推奨です。ハンカチに鉛筆や油性ボールペンは残りやすく、仕上げで困ります。
- 貼り付き:粘着面に置いたら、上からしっかり押さえて密着させます。「浮いている感じ」があると、縫製中にズレやすくなります。
注意:安全最優先。針周りに指・髪・ストラップ・アクセサリーが入らないようにしてください。稼働中にヘッド下へ手を入れて生地を押さえるのは避けます。
準備チェックリスト(Go/No-Go)
- 75/11または70/10の新しい針に交換済み。
- 水溶性粘着スタビライザーを枠張りし、台紙を剥がして粘着面を露出。
- ハンカチがフラットに密着し、レース縁が引っ張られていない。
- 位置印の「X」は水溶性インクで記入。
- 下糸(ボビン糸)は白など生地に馴染む色で、適切に巻けている。
フェーズ2:設定(画面での位置合わせ)
タッチパネルでSensor Penのアイコンを選び、位置合わせの範囲指定に進みます。ここでは、9点グリッドの中央(青い表示)にあたるCenterを選択します。

設定で起きがちな落とし穴
Centerを確実に選びます。もし「Top-Left」などのまま中心点を読ませると、縫い位置が印からズレてしまい、ハンカチを台無しにする原因になります。
設定チェックリスト
- Sensor Penモードが有効。
- 画面上でCenter(中央)が選択されている。
- デザインの向きが画面上で正しい(上下が逆になっていない)。
フェーズ3:操作(センサーペンの読み取り)
IQ Sensor Penは、筆記のように斜めに当てず、刺繍枠に対して垂直に持ちます。まず「X」の交点(中心)をしっかりタップし、機械の確認音(ビープ音)を待ちます。次に「X」の上側の点をタップして角度を確定します。

確認(レーザーで最終チェック)
赤いLEDレーザードットが生地上に表示され、中心印へ移動して合うはずです。

目視チェック:赤いドットが印の中心に「きっちり乗っているか」。また、レーザーの向きが「X」の縦方向と整合しているか。ここで違和感があれば、縫い始めずに読み取りをやり直します。

操作チェックリスト
- ペンは垂直保持(角度を付けない)。
- 2点ともビープ音で確定を確認。
- レーザードットが印と一致しているのを目視確認。
- スタート。
判断フロー:粘着スタビライザーか、保持方法をアップグレードするか
粘着スタビライザーで続けるべきか、保持方法を見直すべきかを整理します。
- 素材が透ける/薄い(ハンカチ・レースなど)?
- はい:動画同様、水溶性の粘着スタビライザーが適します。厚みを増やしにくいのが利点です。
- いいえ:次へ。
- 通常の枠張りが難しい形状(バッグ、襟、既製ポケットなど)?
- はい:クランプ圧に頼らない保持が必要です。粘着でも対応できますが、厚物や段差がある場合は、マグネット刺繍枠のような保持方法が「糊の手間」や枠跡を減らす方向で検討対象になります。
- 量産(50点以上)を回している?
- はい:台紙剥がしを50回繰り返すと、そこで時間が溶けます。位置の再現性を機械的に上げるなら、マグネット刺繍枠 用 枠固定台のような枠固定台を使い、毎回同じ位置に置ける作業環境を作る考え方が有効です(センサーペンに毎回頼り切りにしない)。
注意:マグネット刺繍枠は強力磁石を使用する製品があります。吸着時に強い力で「バチン」と閉じるため、指挟み防止に十分注意し、医療機器(ペースメーカー等)への配慮も必要です。
追加機能:表現の幅を広げる
ボビンワーク
Pathfinderには専用のボビンケースがあり、下糸側に太いコードやリボンを入れて、裏側がチェーンステッチ/リボン刺繍のように見える表現が可能です(縫い目の見え方が通常と逆転します)。

エンドレス刺繍
動画では「Endless」機能も紹介されています。ボーダーの端に基準となるしつけを入れ、次の枠へ移る際にセンサーペンで端点を読ませて、継ぎ目を合わせる考え方です。

現場のコツ:テーブルクロスのような長いボーダーは、継ぎ目の精度が品質を左右します。用途に合えば、エンドレス 刺繍枠のような選択肢で枠替えのストレスを減らす方向も検討できます。
Moore's Sewing Centerでの価格・バンドルについて
George Mooreは、ミシン本体に加え、糸のセットやハサミなどを含むバンドルを提示しています。


「機械」か「解決策」か ミシン導入は第一歩ですが、量産効率の課題は「枠張り・保持・位置決め」を含む全体設計で決まります。Pathfinderの位置合わせ機能が魅力でも、物理的な保持(枠)がボトルネックなら、Baby Lock マグネット刺繍枠のようなアクセサリーで「頭脳(補正)」と「保持(固定)」を分担させる発想が現実的です。
Baby Lock環境で運用している方にとって、標準のbabylock 刺繍枠も扱いやすい選択肢です。一方で、標準枠での保持に限界を感じる場合は、サードパーティーのマグネットフレーム等を検討することで、通常運用の幅が広がることがあります。
トラブルシューティング(症状 → 切り分け → 対処)
仕上がりが完璧でないときは、いきなりソフト設定を触らず、まず「物理」を疑います。
| 症状 | ありがちな原因 | すぐやる対処 | 予防 |
|---|---|---|---|
| 中心は合っているが、傾いている。 | ペンの当て方のミス。 | 縫い始めない。読み取りをやり直す。 | センサーペンは必ず垂直。斜めだと、狙った点ではなくセンサーの読み取り点がズレます。 |
| 文字周りが波打つ/寄る。 | 安定化不足。 | いったん停止し、やり直しを検討。 | 自動しつけで先に固定。貼り付け時に生地(特にレース縁)を引っ張らない。 |
| 中心から2mm程度ズレた。 | 枠の微小な動き。 | (縫ってしまった場合は)基本的に戻せない。 | 枠がキャリッジに確実にロックされているか確認。緩いと微小ズレが出ます。 |
| 裏が糸だまり(鳥の巣)になる。 | 上糸のかけ方/糸調子の基本ミス。 | 糸だまりを慎重に除去し、上糸をかけ直す。 | 上糸をかけるときは押さえを上げる。押さえが下がったままだとテンションが効かず不安定になります。 |
| 枠跡が残る(輪ジミのような圧痕)。 | 枠の圧力によるもの。 | スチームや洗いで軽減を試す。 | アップグレード案:マグネット刺繍枠 babylock 刺繍ミシン 用のように、挟み込みで生地を曲げにくい保持方法を検討。 |
まとめ
Biancaの実演結果は、テンプレートなしでも狙い通りにセンターが出た、きれいなモノグラム仕上げでした。
初心者向けロードマップ
- 準備を固める:水で消える印+水溶性の粘着スタビライザー。
- 操作を固める:ペンは垂直+Center(中央)合わせ。
- 量産に備える:ハンカチ1枚から、ポロシャツ100枚へ。速度に合わせて保持方法(マグネット枠等)も見直す。
