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マスタークラス:Flexfitキャップで“精密3Dパフ”(Gen 2ワークフロー)
キャップ枠で「前パネルがシワになる」「スウェットバンドがズレる」「だいたいセンター…が一番怖い」——そんな“枠張りのストレス”を経験しているなら、キャップ刺繍は「段取り8割・縫い2割」になりがちです。
本記事は単なる手順紹介ではなく、量産でブレにくい標準作業(SOP)としてまとめています。白のFlexfit 110(アジャスタブル)に赤の3Dパフフォームで、盛り上がったベースボールレースを作ります。使用するのは、Gen 2のマグネットキャップシステム(EMB-HOOP TECH表記)+Tajima TMBR 15頭(多針刺繍機)です。
プロ品質の肝: マグネット式の枠固定台の“引き込み機構”と、Tajimaの「DCP(デジタル押さえ制御)」設定を組み合わせることで、3Dパフの大敵である フォーム潰れ と 位置ズレ(位置合わせの崩れ) を同時に抑えます。

ここで身につくこと
- 引っかからない枠張り: スタビライザー(裏当て)を“滑らない状態”でセットする方法
- フラット面の作り方: クラウンを平面化して、糸始末(タイイン)を安定させる考え方
- 「浮かせる」押さえ設定: フォームを潰さずに縫うためのクリアランス調整
- 仕上げの精度: ピンセットとヒートガンで、焦がさず店頭品質に寄せる

工具の切り替えタイミング(アップグレード判断)
生産量が増えるほど、道具の選択は利益率と作業者の負担に直結します。
- きっかけ: 「枠張りに時間を取られすぎる」「濃色キャップに枠跡が出る」
- 原因: 従来の機械式キャップ枠は摩擦と力で固定するため、作業者が疲れやすく、素材によっては跡が出やすい
- 解決(段階的に):
- レベル1(技術): 裏当ての選定と、本記事の手順を標準化
- レベル2(治具): マグネット刺繍枠へ。マグネットは均一な垂直圧で一気にクランプでき、枠跡の低減と手首負担の軽減につながります
- レベル3(量産): 1日50枚以上を回すなら、段取り待ちがボトルネックになりやすいです。多針機で「縫っている間に次を準備」できる体制が効きます(例:SEWTECH 多針刺繍機)

フェーズ1:ストレスの少ない枠張りの“物理”
一般的な枠張りは「人が生地を引っ張って固定」しますが、この方法は「枠固定台が生地を保持」します。狙いは、縫い面を“柔らかい布”ではなく“硬い板”のように不動化することです。
手順1 — スタビライザーを先に固定する
作業内容: あらかじめカットされたティアアウェイ(12" x 4")を、枠固定台のシリンダー上部にあるクリップで挟み込みます。

なぜ重要か: スタビライザーがフワついていると、キャップを被せて引く動作で裏当てが下に引きずられ、キャップと裏当ての間に“たるみ(バブル)”ができます。これが位置ズレや縫い波打ちの起点になります。
- チェックポイント(感覚): 指で軽く弾いたとき、パリッと張っている音がするのが理想です。紙袋のガサガサ音ではなく、軽く張った膜に近い状態を目指します。
手順2 — 「Tバー」で引き込みながらロックする
作業内容: スウェットバンドを下側プレートの下に差し込み、センターを合わせ、上側のマグネットレバーを下ろしてロックします。このときTバー機構がキャップ生地を下方向に引き込み、張りを作ります。


チェックポイント(見た目+手応え):
- 差し込み位置: スウェットバンドを“当たり”まで押し込み、止まりに当たる感触を確認
- センター: 正面のセンターライン(縫い目)を目視で合わせる
- ロック: レバーを倒す瞬間、前パネルがスッと張るのが見えるはずです。さらに、裏側(下側)に“平らな台”ができているかを確認します
補足: Gen 2についてコメントで多いのが「レバーは付属する?」という点です。作成者の回答では、伸ばして固定するための部品はレバーというより Tバー で、Gen 2を使うにはこのTバーが必要で、別売りです。一般的な tajima キャップ枠 と比べると、マグネットの圧が面で分散されるため、バンド式クランプで起きやすい歪みを抑えやすいのが特徴です。
フェーズ2:機械設定(設定=物理)
3Dパフが失敗する典型は、ミシンがフォームを“布と同じ扱い”で押さえ込むことです。フォームは体積が命で、潰すと戻りません。

手順3 — 「浮かせる」オフセット設定+回転数の上限
設定内容: Tajima TMBRのパネルで、DCP(デジタル押さえ制御)を調整します。
- 通常の下死点: 1.5 mm(布向け)
- 3Dパフ用オフセット: フォームを縫う色ブロックに対して 3.5 mm に上げます
回転数: 動画では 1000 RPM に設定しています。
安全・品質のための運用目安:
- 動画の設定: 1000 RPM
- 慣れていない場合: 600〜700 RPM から
- 理由:フォームは摩擦熱が出やすく、高速+摩擦=フォーム溶け/糸切れの原因になります。テンションと針の状態に自信がつくまでは、速度より再現性を優先します。

なぜ3.5mmなのか: 通常刺繍は押さえで生地を針板側に安定させてループ形成を助けますが、3Dパフでは押さえがフォームを“叩く”と潰れます。狙いは、圧縮されたフォームの高さを邪魔しない程度に押さえを「浮かせる」こと。3.5mmは動画で示された実用的な基準値です。
互換性の注意: このDCP機能はTajimaの上位機能です。古い機種などでデジタル制御がない場合、同様の狙いを出すには押さえ高さ(機械ネジ等)の手動調整が必要になります。マグネット刺繍枠 tajima 用 を探している場合も、枠だけでなく“押さえの逃げ”をどう作るかが3Dパフの成否に直結します。
フェーズ3:消耗品と段取り(見えないチェックリスト)
ミシンが動く前に、現場の準備で勝負が決まります。
使用物(動画+コメントで確認できる範囲)
- 針: 動画では針番号#11が表示されますが、コメントで作成者が 80/12 チタン・シャープ針 と回答しています
- 糸: 40番(Candle Thread)
- スタビライザー: 3oz ティアアウェイ(12" x 4" の短冊)
- 固定: マスキングテープ(端を小さく切って使う)
- 仕上げ工具: ピンセット、ヒートガン、糸切り

判断:硬いキャップでも裏当ては必要?
コメントで「内側が硬いのに、紙のティアアウェイを使うの?」という質問があり、作成者は “Yes, 3oz tear away” と回答しています。
運用の考え方(動画内容に沿った整理):
- フォーム刺繍では基本的に使用する前提で組むと安定します。硬い芯があっても、縫製中の微小な動きや摩擦は残ります。
- 裏当ては、縫い面の安定だけでなく、枠側での“滑り止め”としても効きます。
段取りチェック(省略しない)
- 針の状態: 先端に欠けや引っかかりがあれば交換(フォームの切れが悪くなります)
- 下糸(ボビン糸): 残量が十分か(途中で切れると修正が難しい)
- フォームの準備: 前回のフォームを型紙にして、必要サイズにカット(無駄を減らす)
- テープの準備: すぐ貼れるよう短冊を作っておく
フェーズ4:実行(“手を入れない”ゾーン)
手順4 — 位置縫い→フォーム設置→テープ固定
作業内容: 位置縫い(プレースメント)を走らせ、フォームを置き、必ずテープで固定します。

注意:安全面(機械動作)
作成者は「手でフォームを押さえない」ことを強く推奨しています。高速で動くため指を巻き込みやすいこと、またフォームをまっすぐ保ちやすいことが理由です。マスキングテープは縫い経路から十分外した“端”で固定してください。
手順5 — タックダウン→サテンで巻く
作業内容: 最初に歩き縫いのタックダウンでフォームを押さえ、その後サテンで一気に包みます。動画では密度 0.18 mm が言及されています。

現場のコツ: 動画では「最初の数針が入ったらテープを外してもよい」という流れが示されています。外す場合は、無理に引っ張らず、安全に停止/色替えのタイミングで行うのが確実です。
実行前チェック(プリフライト)
- 枠の固定: キャップ枠を軽く引いて、ロックが甘くないか
- 押さえ高さ: フォームの色ブロックで3.5mmオフセットになっているか
- 回転数: 自分の安全・品質レンジ(例:700 RPM)に制限できているか
- 位置合わせ: センターラインが垂直に出ているか
フェーズ5:仕上げ(最後で台無しにしない)
縫えた後の数分で、見た目の“商品感”が決まります。

手順6 — フォームを「パリッ」と剥がす
作業内容: 余分なフォームを破って除去します。
- チェックポイント(音): 作成者が言うように、パリッ、パリッ と小気味よい音が出ると切れが良い状態です。


仕上げ手順:
- ピンセット: 側面から出る小さな“残り(stragglers)”をつまんで除去
- ヒートガン: 最後のひと押し(作成者いわく“仕上げのアイシング”)
- 動かしながら、当てすぎないのが前提です
注意:熱の当てすぎ
熱をかけすぎると、糸や生地にテカリ・変形が出たり、キャップの芯材に影響が出るリスクがあります。ヒートガンは“軽く整える”用途に留めます。
トラブルシューティング:症状→原因→対策
次の1枚を無駄にしないための切り分け表です。
| 症状 | ありがちな原因 | 対策 |
|---|---|---|
| 盛りが低い/潰れて見える | 押さえがフォームを潰している | 押さえの逃げを増やす: DCPオフセットを見直す(例:3.5mm→4.0mm)。フォーム用の設定が色ブロックに適用されているか確認 |
| フォームがギザギザに残る | 密度不足/針が鈍い | 針を交換: 80/12シャープ(作成者はチタン)に。密度確認: 動画の0.18mmを基準に見直す |
| 糸切れが増える | 摩擦熱・抵抗が大きい | 回転数を落とす: 600〜700 RPMへ。必要に応じて針番手・針種も見直す |
| 位置ズレ(レジずれ) | 枠張りが甘い/裏当てが滑っている | 枠張りをやり直す: スタビライザーをクリップで張り、スウェットバンドの当たりとセンターを再確認。必要なら tajima 用 マグネット刺繍枠 のような一貫した保持力の治具も検討 |
設備選定について(コメントで多い質問)
コメントでは「初心者がTajimaを買うべき?」という相談も出ています。高級機はDCPのような制御で3Dパフがやりやすい一方、導入コストも大きいのが現実です。既存設備で位置ズレを改善したい場合、tajima 刺繍枠 を検討する際は、機種ごとのアーム/駆動側の適合も含めて確認が必要です。
注意:マグネットの安全
マグネット刺繍枠は強力な磁力を使います。
* 挟み込み注意: 指を強く挟む危険があります
* 医療機器: ペースメーカー等には近づけない
* 電子機器: スマホやカード類は12インチ以上離す
最終検品(QC)と次の一手
狙いは「趣味っぽさ」ではなく「工場出荷の見た目」です。白地に赤のレースが立ち上がり、エッジがきれいで、センターが決まっていること。

仕上がりチェック(QC合格ライン)
- 見た目: 3Dで丸みがあり、潰れていない
- 触感: 端がチクチクせず、フォーム残りが少ない
- 形状: キャップ前面が歪んでいない/熱で崩れていない
- 内側: 裏当てがきれいに取れており、下糸の引き具合が極端でない
量産のループ(同じ品質を繰り返す)
1枚を完璧に縫うのは技術、500枚を同じ品質で回すのは仕組みです。枠跡や手首疲労で悩むなら、工程として解決できます。
物理を理解し、変数を管理すれば、縫いは安定します。
